リトグラフとは ◇版画の種類 *版画の種類は、大きく4種類に分かれています。 (凸版・凹版・平版・孔版) そのなかでリトグラフは平版という種類にに属します。 ・凸版 木版画 リノカット ・凹版 ドライポイント エッチング ・平版 リトグラフ ・孔版 シルクスクリーン ステンシル ◇リトグラフの発明 リトグラフは、1798年にドイツで、アロイス・ゼネフエルダ 1771~1634)によって発明された水と脂が相反発する技術を利用した印刷技術です。 ある日、母親に頼まれた洗濯物のリストを、手近にあったクレョンで石の上にメモしたのがきっかけとなり、この技法が考案されたと伝えられています。 リトグラフの、リトはギリシャ語で石を意味します。グラフは図版という意味で、石版画ともいわれています。 当初はドイツ・バイエルン地方ゾレンフォーヘンの石灰石層から産出される石版石が使われていました。しかし現在では石版石は、高価な上に手に入りにくく、しかも重くて扱いづらいなどの難点があるため、今ではジンク版(亜鉛版)やアルミ版が使われています。 クレヨンや筆のタッチが表現できることからそれまでの銅版画とは違った、新しい版画芸術を生み出すこととなりました。 ◇石版石を使ったリトグラフ 石版石を使ってリトグラフを制作するには、まず石版石の研磨からはじめます。 石版石の主成分は炭酸カルシウムで(98%以上)、非常に水を含みやすい構造(多孔質)になっています。 平らに研磨するには経験と労力が必要です。石版石と石版石をあわせ、(または研磨板を使用し)金剛砂(研磨材)と水を使って砥ぎあげます。 次に、磨きあがった石に直接、描画材(脂肪性の高い解墨やクレヨン)で描画します。描画が完成しますと石の表面に、硝酸ガムを塗布します。 硝酸ガムはアラビアガムの溶液(アカシア科の植物から淡褐色の球塊として採取される天然樹脂のひとつ)に硝酸を加えたものです。 これにより描画部分が、脂肪酸カルシウムとなり水分を反発してインクを引きつけるようになります。描画部分以外は、酸化カルシウムとなり水をひきつけるようになります。 こうして、石版石の表面に水をはじく部分と水を保つ部分がつくられます。 そして、ローラーで油性のインクを盛る時に、常に石版の上を、水を含んだスポンジで湿しておけば、描画部分は水を反発してインクが付き、水のある部分は反発によってインクが付きません。 ◇金属板を使ったリトグラフ 現在では、石版石より金属板(アルミ・ジンク)を使ったリトグラフが主流となっています。 基本的な原理としては、石版石を使ったリトグラフも、金属板を使ったリトグラフも同じなのですが、 描画、製版、刷りの各工程において、いくつかの異なった処置が必要となります。 金属板のメリットとしては、やはり薄くて軽いので取り扱いが楽で、 保管するスペースも小さくてすむということです。 刷りを生業としている版画工房にとっては、多くの作家のリトグラフを手掛けるので、 版の保管スペースが小さくてすむということは大きなメリットになります。 もちろん、金属板は値段が安くて入手が容易であることもメリットになります。 金属板の石版石との物理的な違いは、金属板には天然の気孔が無いことです。金属板は研磨を行い砂目をたてることにより、石版石の多孔質の性質を補います。ただ、完全には石の天然の気孔の様にはなりえないので、製版の工程でこの違いをさらに補うことになります。 この金属板の研磨は、専門の業者に依頼することがほとんどです。版画工房自身で、研磨の設備を備えているところは多くは無いと思います。 金属板は画材店に注文すれば、取り寄せが可能だと思います。目立てにこだわったり、版画工房のように大量に版を使用するケースでは、直接研磨屋さんに注文するほうがよいでしょう。 研磨が済んだ金属版には、整面という処理を行ないます。整面は、新に研磨し砂目を立てた金属板に、感脂性を与えるために行ないます。(整面処理についての詳細はお問い合わせいただければ、お答えします。)整面処理の後、描画を行ないます。この間、あまり時間をあけず、すぐに描画作業にかかったほうが良いでしょう。 描画材料は金属板も石版石も、ほぼ同じです。描く感覚は(触感)かなり違いがあります。さらに金属板は油性物質を、石よりもひきつけるので、汚れ等にも気をつける必要があります。 描画に入る前に、金属板の周りにアラビアガムを、少なくとも3~4センチは塗布しておきます。全面に描画してしまうと、イメージの周りが汚れたり、刷る時にスキージ(圧力をかける部分)を下ろすところの余裕が無くなってしまうためです。描画が終わると製版に移ります。 描画を仕上げた版を、エッチ(etch)用の台に置きます。(銅版画でエッチ[etch]というと、酸で腐食させることを言いますが、リトグラフの場合は版に科学的な作用を与えるといったような意味で使います。)台は製版専用である必要はありません。 きれいな石版石の上やプレス機のベッドの上でかまいません。描画を仕上げた版に、タルクを振りかけます。タルクは描画部分を、エッチ液の酸から守ります。次に第一エッチ液を塗布します。エッチ液はアラビアガムの水溶液に、硝酸・リン酸・タンニン酸を混ぜて作ります。 エッチ液は、その描画にあわせて酸性度や版に作用させる時間を変えます。安定した不感脂化を得るためには、エッチ液のpH値と作用させる時間のデータを、熟知する必要があります。この製版の工程は、工房ごとに若干違うかもしれません。それぞれ、工房独自のノウハウがあるかと思います。 スポンジなどを用いて、静かにまんべんなく版に塗布していきます。 エッチ液が乾いたら、洗い出しを行い、製版インクでロールアップします。 アルミの板は非常に感脂化が強いので、当然製版インクでも感脂化してしまいます。ですから、版がつぶれてしまうと(黒くなりすぎると)もとに戻すのはなかなか大変なので、慎重にロールアップします。 |